がんの起源に迫る研究が進んできた。増殖が止まらない異常な細胞集団も、始まりは一つの正常な細胞だ。細胞どうしの監視機構が、がんの進化にかかわりそうなこともわかってきた。
新潟大やがんを研究する佐々木研究所(東京都)のグループは、子宮内膜の遺伝子を調べている。正常な組織でも、がん関連遺伝子の変異はひんぱんに見つかるという。
がん関連遺伝子に変異が入ると、その子孫の細胞で別のがん関連遺伝子にも次々と変異が入り、増殖スピードを上げ、がんになると考えられてきた。
だが、がん関連遺伝子に変異が入ったとしても、すべてがんになるわけではない。そもそも子宮内膜は、一生で400回を超す月経のたびにはがれ落ちて再生する。変異はどのように伝わるのか。
はがれる層には、多数の微細な管のような「腺管」構造がある。複数の腺管は植物の「地下茎」のように下でつながっており、地下茎は月経ではがれずに残る。地下茎を共有する腺管はみな同じ変異をもっていることをグループは突き止めた。地下茎が再生、変異を伝える要になっていた。さらに変異をもつ細胞は「領土」を拡大していくと推定された。
変異の数は年齢が上がると増える傾向があったからだ。佐々木研究所の中岡博史部長は「がん関連変異のある細胞のほうが、増殖に有利らしい」と話す。
ただ、謎は残る。閉経で腺管は萎縮して増えなくなる。一方、子宮体がんは閉経前後から閉経後に増える。がんになる過程は今後の課題という。
乳がん発症まで数十年、体の細胞集団は「モザイク」
乳がん患者の遺伝子を調べ、がんになる過程に迫ったのが、京都大の小川誠司教授らのグループだ。
がんと正常な組織を解析し、正常な組織にがんと共通する染色体の異常を見つけた。詳細な解析で、共通の祖先細胞は、思春期前後にできたと推定された。独自の進化をとげ、がんになるまで数十年かかっていた。
「がん」と診断される時には…